待ちに待った休日が訪れる。
桜井は朝早くから友達と遊ぶ予定があるとかで、家を出ている。
僕は一人だ。
となると、特にやりたいこともない。
なんとなく部屋を掃除してみたり、煙草を吸ってみたり、ビールを呑んだり。
最近ビールばかり飲んで康泰旅行團 日本いる気がする。
このままだと体が全部プリンになるんじゃないか。
待ちに待っていたはずの休日だった。
だが、休日だからといって、何か面白いことが起きるわけではない。
それどころか、いつも以上に何も起こらないような気さえする。
換気扇の下で煙草を吸いながら、妙に広く感じるリビングを見渡してみる。
なんだか家の中にある物がよそよそしく、静かに僕をみつめているような気がした。
窓の外は快晴。
外に出てみるか、と僕は思う。
家の中は、なんだか居心地が悪い。
なによりも、とても暇だ。

適当なTシャツに着替え、裾のほつれたジーンズを履き、ポケットに煙草と携帯灰皿と財布と鍵を突っ込んで、寝癖を直し、サンダルを履いて、家のドアを開けた。
春らしい日差しが僕を照らした。
隣の家から出てきた男をも照らした。
髪を茶色に染めていた。毛先がうねっているのはパーマをかけているからか。
目鼻立ちのはっきりした顔をしているが、セルフレームの眼鏡のせいか、どこか愛嬌のある顔に見えた。
黒いジャージの上下。ジャージと同じブランドのスニーカー。

隣に住んでいる人をはじめて見た気がする。
僕と彼は、ばっちり目が合ってしまう。
「あ?」
彼の第一声がこれである。
地の底から響いてくるような、がらがらした声だった。
「ん?」
僕の第一声がこれである。
間の抜けた声だ。
僕たちは数秒見つめ合う。
予期せぬ遭遇康泰旅行團 日本を前にして思考が停止した。
相手はお隣さんである。
愛想よく挨拶でもした方がいいのだろうか。
しかし見たところ、彼は僕と同年代くらいに見える。フレンドリーに声をかけてみるべきかもしれない。
だが彼が、人と話すのが苦手な人だったとしたら、声をかけるのは迷惑かもしれない。会釈でもして、さっさと去るのが正解ということもある。
ということを考えているうちに、全てのタイミングを失い続けている僕たちである。
どうやら向こうも色々と考えているらしく、あごに手をやって眉間に皺を寄せている。
僕も頬をぽりぽりかきながら考えている。
そんなことをしているうちに、彼はついに自分の立場を決めたらしく、その場で腕を組み、ふんぞり返って僕を見下すような顔をした。
「お前がなんか言えよ」と無言のうちにプレッシャーをかけてくる。
そんな態度をとられたら、そりゃ僕だって腹がたつ。
僕は相手をみつめながら廊下の手すりによりかかって、煙草に火をつけた。
あくまで僕は、家を出て煙草を吸っているだけの人間で、断じて彼を意識しているわけではない、という姿勢である。
彼はむっとした顔で、僕と同じような格好をして煙草に火をつけた。
どうやら彼も喫煙者らしかった。
僕がポケットから携帯灰皿を出して灰を落とすと、彼は少し慌てたような素振りを見せた。
彼は携帯灰皿を持っていないのだ。僕はほくそ笑んだ。
僕の勝ち誇った表情を見た彼は忌々しげに顔をしかめる。
だが敵もさるもの、僕のすぐ隣まで歩いてきて、僕の康泰旅行團 日本灰皿に灰を落としたのである。
その上、それがさも当たり前のような顔をしている。
これではまるで僕が使われているだけのようではないか。
かといって彼に使わせないようにすると、きっと子供っぽい奴だと思われるだろう。
僕は余裕の顔で、相手が使いやすいように灰皿の位置を変えてやる。
「お、サンキュー」
と彼は口に出して言った。
それからすぐに、自分で言った言葉に驚いている。
その顔が思いのほか面白かったので、僕は笑う。
もちろん悪気はない。
「僕は雉子谷」
そう言うと、彼は気まずそうに頭をかきながら、
「鳴沢」
と、低い声で言った。
僕と彼は並んで煙草を吸っている。
もう睨みあってもいないし、自己紹介も終わった。
話すことがなくなってしまうと、どうして自分はこんなところに立って煙草を吸っているのか、とても不思議な気分になってくる。
ここにいる必要もないのだから、家に帰ればいいのかもしれないが、一度顔見知りになってしまった手前、今度は別れの言葉が言いづらい。
しかも鳴沢は煙草を吸うペースが早く、僕が消そうと思ったタイミングで新しい煙草に火をつけたりするのである。
携帯灰皿を持っているのは僕だから、帰ってしまうと鳴沢が使う灰皿がなくなる。
だから僕も仕方無く新しい煙草に火をつける。